MLBストライクゾーン自動判定の「ロボット審判」とはどんなシステム?導入はいつ?
MLB(メジャーリーグベースボール)では、近年「ロボット審判」という言葉をよく耳にするようになりました。特に大谷翔平選手の活躍により、MLBを見始めた野球初心者の方にとっては「ロボットって何?審判がいなくなるの?」と不思議に思うかもしれません。
実はこの「ロボット審判」、見た目がロボットの機械がプレートの前に立つわけではありません。この記事では、ロボット審判のシステムス、トライクゾーン等について解説していきます。
ロボット審判とはどんなシステム?
ロボット審判とは、正式には「Automated Ball-Strike Challenge System(ABS)」と呼ばれるもので、ボールがストライクゾーンを通過したかどうかを複数のカメラで自動的に判定するシステムです。
「Hawk-Eye(ホークアイ:試合中にボールの位置や軌道を分析、再現)」と言うシステムが、瞬時に「ストライク」か「ボール」かを判断し、その結果を審判に伝えるという仕組みです。あくまで「審判のサポート役」として、技術が使われているのです。
判定は「チャレンジ方式」
2025年スプリングトレーニングでテストされたABSの運用方法は、「チャレンジ方式」と呼ばれる形式です。
- 各チームは1試合に2回までチャレンジ可能(成功すれば回数は減らない)
- 投手・捕手・打者のみがチャレンジできる(ベンチからは不可)
- チャレンジは投球直後、1~2秒以内に申告する必要がある
チャレンジが行われると、審判が「チャレンジ発生」と宣言し、球場のビジョンやテレビ中継にピッチの正確な位置と判定結果のグラフィックが表示されます。
これにより明らかなミス判定が訂正され、改めて正しい判定がなされます。
MLBロボット審判導入理由
導入の背景には、長年MLBを悩ませてきた「判定ミス」があります。人間の審判は経験豊富でも、150kmを超える速球や際どいコースでは、正確な判定が難しい場面も少なくありません。
さらに、打者や投手の立場によって微妙に変化する「人間の審判によるストライクゾーン」が、時に不公平感を生む原因にもなっていました。
そこで、誰が見ても同じ判定を出せる「機械による公平な基準」が求められたのです。
ボールとストライクを見分けの仕組み
ボールが投げられた瞬間からホームプレートを通過するまで、ミリ単位の正確さでボールの位置・スピード・回転までを測定。ストライクゾーンを通過したかどうかを自動で計算します。
このシステムは、MLBの放送や球場内のデータ解析にも使われており、ファンがテレビで見る「球速」や「変化量」などの情報も同じ技術で生成されています。
また、サッカーで話題となった、2022年FIFAワールドカップでのVARシステムによる「三笘の1mm」は同様のシステムが使用されています。
AP通信フォトグラファー、ヨセクさんのInstagramより
「三笘の1mm」で話題となった写真
選手の身長によるゾーンの自動調整
ABSでは、すべての打者に公平なゾーンを設定するため、MLBの全選手の身長を実測で測定しました。
その数値に基づいて、各選手に個別のストライクゾーンが割り当てらストライクゾーンの上限・下限を自動で調整する仕組みも備えています。
- ストライクゾーンの上限 → プレーヤーの身長の53.5%
- ストライクゾーンの下限 → 身長の27%

参考イメージ

例えば、身長180cmの選手であれば、上限は約96.3cm、下限は約48.6cmとなり、この範囲にボールが通れば「ストライク」と判定されるのです。
現在のストライクゾーンは打者の打撃姿勢で決まりますが、ABS ゾーンは打者の体の部位を無視します。膝や肩については何も考慮しません。
これは、選手の構えやスタンスによってゾーンが変わってしまうという混乱を避けるため、「身長基準」で統一している点がポイントです。
MLBストライクゾーンの定義(現在)
The STRIKE ZONE is that area over home plate the upper limit of which is a horizontal line at the midpoint between the top of the shoulders and the top of the uniform pants, and the lower level is a line at the hollow beneath the kneecap. The Strike Zone shall be determined from the batter’s stance as the batter is prepared to swing at a pitched ball.
OFFICIAL BASEBALL RULES 2025 Edition
翻訳:ストライクゾーンとは、本塁上に位置する空間であり、その上限は両肩の上端とユニフォームのズボンの上端との中間点に引かれた水平線である。下限は膝頭の下のくぼみに引かれた水平線である。ストライクゾーンは、打者が投球に対してスイングの準備をしている打撃姿勢に基づいて決定される。

MLBで長年使われてきたストライクゾーンは、審判の裁量によって「やや広く」「やや狭く」など、試合状況に応じて変化する“生き物”のような存在でした。
しかし、ABSでは一定の長方形のゾーンが画面上に設定されており、ボールがその中を通過したかどうかで機械的に判定されます。このため、「今日はゾーンが広いな」といった日替わり感はなくなり、選手からは「公平で予測しやすい」との声も上がっています。
重要な判定に限ってのチャレンジ運用が主流に
マイナーリーグ(AAA)で、「すべての球を機械で判定する方式」「チャレンジ方式」がテストされましたが、「チャレンジ方式」が下記の通りちょうど良いバランスと選手・コーチ・ファンから支持されました。
- ゲームのテンポを崩さない
- 審判の存在感を残せる
- 判定ミスの多い「重要な球」だけを見直せる
スプリングトレーニングでの最新テスト内容
MLBでは、2025年のスプリングトレーニング期間中に、メジャーリーグ選手を対象としたABS(ロボット審判)の実地テストが行われました。
今回のテストでは、ABSチャレンジ方式が導入され、各チームが1試合あたり2回のチャレンジ権を持つルールが採用されました。
ただし、チャレンジが成功(=判定が覆る)した場合はそのチャレンジ数は消費されません。つまり、正しいチャレンジなら何度でも使えるわけです。
チャレンジ可能なのは、投手・捕手・打者のみ。
チャレンジの合図は「ヘルメットをタップする」などの簡単な動作で行われ、審判がすぐに「チャレンジ宣言」を行います。
その後、球場の大型ビジョンやテレビ中継で、グラフィック付きの判定結果(ピッチの位置とストライクゾーン)が映し出されます。1回のチャレンジにかかる時間は平均で17秒ほどです。
【動画】2025年スプリングトレーニングでのロボット審判
チャレンジのタイミングが勝負を分ける
テストを通じて明らかになったのは、「チャレンジのタイミング」が非常に重要だということ。
チームによっては、下記の通り独自のルールを定めていました。
- 2ストライクの時だけチャレンジを許可する
- 終盤の重要な場面に限る
- 捕手だけがチャレンジ判断を行う
統計的にも、終盤や打席の後半におけるチャレンジの成功率が高いことが分かっており、試合の流れを左右する場面でこそABSの価値が発揮されると言えます。
その他のテスト内容・展望
- 各チームの選手は、iPadを通じてゾーンのフィードバックを提出可能。
- 放送時の「ストライクゾーンボックス」表示の工夫(情報が先に見えすぎないようにする)も検討中。
- チャレンジ回数は1試合平均4回程度。あまり多すぎるとテンポが悪くなるので、抑えめが好まれる傾向。
MLBでの本格導入はいつ?
現時点(2025年春)で、MLB公式の発表によれば、2025年シーズンのメジャーでの導入は見送りとなっており、まずは引き続きトリプルA(3A)での運用を継続していくとのことです。
最も早くて2026年シーズンからメジャーリーグでロボット審判(ABS)が導入される可能性があります。
ロボット審判導入で「変わること」「変わらないこと」
変わること
- 判定の正確さと公平性が飛躍的に向上
特にストライク・ボールの際どい判定で、選手やファンが不満を感じる場面が減少。 - 捕手の「フレーミング技術」が意味を失う可能性
これまで捕手は投球をストライクに見せる技術で評価されていましたが、ABSではその影響がなくなる。 - 試合中の抗議や退場劇が減る
明確なデータに基づく判定が行われることで、審判への激しい抗議は減っていく。
変わらないこと
- 最終的な宣告は「人間の審判」
現時点では、機械が判定を出し、それを人間の審判が宣言するスタイルが維持。
スプリングトレーニングでは、選手がiPadを使って判定への不満や意見を直接フィードバックできる仕組みも導入され、技術の改善に活かされています。
ストライクゾーンの判定に明確な基準を持たせることで、選手にとっては安心してプレーに集中できる環境が整い、ファンにとっても判定へのストレスが減ることで、純粋に試合を楽しめるようになると期待されています。